社会の底辺loserのブログ

趣味や特技、役立つ情報を伝えていきます。

【第3章】崩落 1/2

歪んだ認知と狂った矜持

同級生が当たり前にできることが私にとっては途方もなく難しいことだった。
だから、「これさえあればいい」っていうものがどうしても欲しくて、必要で、
がむしゃらに頑張っていた。
孤独は強さだと、友達がいないことは利であると信じ込むことで
周囲と上手くやれないことの免罪符にしていた。
孤高を気取っていた。
自分は孤高の一匹狼であると思っていた。
そうでも思わないとどうにかなってしまいそうだった。
しかし、現実はどこまでも冷静で冷淡で厳しい。
周囲の目に映る私は孤高の一匹狼なんかではなくて、

ただの精神異常者だった。


【第3章】崩落

友達とテストの点数や成績で勝負する。
誰しも一度はしたことがあるイベントなのではないだろうか。
たわいもない出来事。
多くの者にとってそれは特別語るような思い出話ではないのかもしれない。
だけど僕にとってそれは、人生のハイライトと言っても過言ではない。
高校の時、ウインターカップで23得点8アシストをマークした試合の時に匹敵する過去の栄光だ。


僕「4位だったけど」

ぶっきらぼうにテストの順位を聞いてきた委員長に対して、そっけなく返した。
勝ちを確信していた。というか順位を見た時に自分の勝ちを知った。

委員長「じゃあ、私の勝ち。私、3位だから。約束守ってね」

相変わらず冷たい声だったが、喜んでいることが窺えた。

僕「いや、僕の勝ちだ。僕は学年で4位だよ。クラス順位は1位」

間違いなくドヤっていた。あえて学年順位から言ういやらしさ。さすが僕。

委員長「嘘でしょ!?」

驚いていた。そりゃあ、そうだ、クラス1位はTだと思っていただろう。

僕「ほら」

そう言って、僕はおもむろに成績表を見せた。普段の僕なら絶対にしない行動である。

完全に浮かれている。

委員長はまじまじと見てから怪訝そうな顔でこう言ったのだ。

委員長「どうして......そんなにできるのに社会の底辺はそんななの?」

すごく失礼なことを言われているような気がする。純粋に不思議といった感じがまたなんとも。いや、「わーすごい」みたいな反応が来るとは思っていなかったけれども。

僕「そんなとは?」

少しイラッとした僕は淡泊に返す。

委員長「あのさぁ、前から思っていたんだけど、そうやってわかってるくせに質問するのやめてくれない?本当にムカつくから」

ガチトーン。ガチギレ。普段の彼女からは想像もつかないような怖い感じだ。腹の底からお前が嫌いだ、ということが伝わってくる。もっともあの事件から会話こそなかったものの、常に彼女からは僕に対する敵意、嫌悪を感じていた。
僕は知っている。この状態では僕が口を開けば開くほど彼女はイライラが募っていくことを。僕の口から彼女が期待する言葉が出ることはない。

僕「......」

委員長「なに?無視すんの?」

どうやら口を開かなくてもイライラは募っていくようだった。

僕「僕が勝ったら自由にしていいんだろ?そんなでも別にいいだろ」

委員長「そう......」

ん?怒るかと身構えていたんだが、呆れ果てているのか大人しいぞ。
これは完全に見捨てられたか。周囲から夫婦漫才していると思われていた頃がなつかしい。

委員長「一生そうしてなよ!!!」

かなりの間があってから彼女は教室にいる全員がこちらを見るくらいには大きな声でそう叫んだ。会話は終わったと思っていた僕は教科書を開こうとしていた手が止まる。
一体何事かと委員長と仲が良い女子生徒2人がこちらにやってきた。

女子生徒A「〇〇(委員長)、大丈夫?(:_;)」

女子生徒B「相手にしちゃだめだよ......」

僕に冷ややかな一瞥をくれた後、そんなことを言っていた。

委員長「大きな声出しちゃって、ごめんね(^^; 大丈夫だよ」

同一人物とは思えない明るい優しい声をしていた。

 

ああ、正直に言おう。

僕は変態だ。

だって僕はこの時、優越感に浸っていたのだから。
容姿端麗、頭脳明晰、誰にでも気さくに話す明るい性格、非の打ち所のない彼女。
クラスの人気者、いや学年のアイドル的存在。男女問わず好かれている彼女。
僕と真逆な彼女。

そんな委員長様が僕にだけは他に見せることのない彼女でいてくれる。
他の者に向けることはない強い感情を僕には抱いていてくれる。
往々にして好きよりも嫌いの感情の方が強いのだ。アンチは最大のファンとはよく言ったものだ。それほど嫌いという感情には熱がこもる。
僕はそこに価値を見出してしまっていた。

どんな形であれ、特別でありたかった。

 

その日の帰り道。僕は部活を終えるといつも通り走って家に向かう。

家まであと3分といったところで鉢合わせてしまったのだ。

女子生徒K「社会の底辺、ちょっと待って」

 

嫌な予感で胸がいっぱいだった。

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牛乳と焼プリンタルト

学校は嫌いだったけれど給食の時間は楽しみだった。
クラスになじめていない僕も余った牛乳や焼プリンタルト争奪ジャンケンには必ず参加していた。
参加者は大体男子なのだが、Kはよく男子に混ざってジャンケンしていた。
これにより僕が委員長の次に絡みが多かった女子はKだった。
彼女とは何度も本気のジャンケンをした間柄である。言わば戦友みたいなものだ。
その戦友と戦場以外で相まみえることになろうとは......

僕「お疲れ様です」

やばい、急に話しかけられたからお疲れ様ですとか言っちゃたよ。恥ずかしい。

K「社会の底辺さ、なんで私を庇ったの?嘘までついて」

あー、やっぱりその話になるか。そうだろうと思ってはいたが、もはや思い出したくもない話である。

僕「いや、庇ったわけではない。それに嘘じゃなくて本当のことだから言ってみただけだ」

K「本当なの?見たわけ?」

僕「見たよ。まあ、誰も信じないとは思うが」

僕は悟ったように言った。

K「信じるよ私は」

Kはあっさりとそう言った。

僕「......」

かなり面食らった。予想外もいいところ。
いや、冷静に考えてみればKはこのことで僕に助けられた形になっているわけで信じてもおかしくはない話ではあるのだが、周囲が敵だらけに見えていた当時の僕にはKのこの言葉は衝撃だった。
......嬉しかった。孤高を気取ってはいるものの、心のどこかでは誰かに理解してほしいと思っていたのだと思う。やっぱり一人は寂しい。
でも、それを願ってしまったら弱くなってしまうような気がして、、嬉しいと思ってしまったら自分ではなくなるような気がして、、僕はまた何も言えなくなった。

K「だって、〇〇(委員長)に嫌われてまで私を庇うわけないし、私......Tがちょっとおかしいの知ってるんだよね」

僕「......」

Kは運動部所属の部活ガチ勢で学校行事よりも部活優先。
合唱祭に向けて朝練をするかの議題で僕と一緒に「しない」に手を上げていた数少ない女子で委員長よりかは仲良くなれるような気がしていた。
いうても彼女がどんなかよく知らないわけだけど。委員長と同じくらいよく喋るが、ザ・優等生の委員長と違ってギャルっぽいイメージがあったくらいだ。

K「社会の底辺ってさ、〇〇(委員長)のこと好きなんでしょ?」

なぜそうなるのか本当に疑問。

僕「そう見えるか?」

K「見えるよ。社会の底辺、〇〇(委員長)としか話さないじゃん」

僕「向こうが話しかけてきてるから話してるだけだよ」

K「そうだ、いいこと教えてあげよっか!〇〇(委員長)とT別れたみたいだよ」

どうやらこの人の中では僕が委員長を好きなことは揺るぎないものらしい。

K「きっと社会の底辺のせいだよ(笑)、どう?」

Kのテンションがあがっているように見えた。誰誰が付き合っただの、別れただの、そういった話が大好きなんだなと思った。

僕「どうってなんだよ」

K「どんな気分?私思うんだけど、〇〇(委員長)も社会の底辺のこと満更じゃなかったと思う。なんていうか二人だけの世界みたいなのがあるよね。それに周りが社会の底辺の悪口とか言ってても絶対に言わないし、庇うようなことまで言ってたんだよね」

僕の中で何かが崩れていく気がした。
「いや、それはあいつのいい子ちゃん的な性格からだろ」みたいなことを言おうかとも思ったが言えなかった。自分に対する嫌悪感が嵐のごとく湧いてきてどうにかなってしまいそうだったからだ。周囲と上手くやれない自分、〇〇(委員長)の善意を踏みにじっている自分。Kは勘違いしている。委員長は僕のことを好きなんかじゃない。
彼女の中にあるのは好意ではなくて同情、哀れみ、そして善意だ。わかってはいた。わかってはいたけれど考えないようにしていた。

臆病者ものの僕は善意すら怖いのだ。

K「〇〇(委員長)、ムカつくんだよね......」

さっきまでとは打って変わって暗い声でKは話し続ける。

K「〇〇(委員長)って頭いいじゃん?なんていうか私達と話すとき合わせてくれてる感がすごいんだよね。それでTとか社会の底辺と話す時は素が出ているというか本当の自分で話していますみたいな......私と話すときは子供と話してます感あってムカつく」

めちゃくちゃ言いたいことはわかる。あいつは相手に合わせて上手くやろうとし過ぎなんだよ。いや、僕とは上手くできていないけど。

僕「わかるよ。〇〇(委員長)はみんなと仲良くなろうとしているからな。そうなると無理が出てくる」

理想論もいいところだ。みんなと友達に、みんなと仲良くなんてできるわけがない。

K「社会の底辺とは真逆(笑)誰とも仲良くしようとしないよね。うちらのクラスって社会の底辺に話しかけてはいけない、仲良くしてはいけない空気あるじゃん。しんどくないの?」

しんどくない......わけがない。
常に敵意、悪意を向けられていて何も感じない人間などいるのだろうか?ましてや中学生。周りも中学生。時として子供は残酷だ。大人と違って露骨に感情を出してくる。生徒の多くは特に女子生徒は僕のことをゴミを見るような目で見てくる。委員長も例外ではない。
例外なのは目の前にいるKくらいだろう。

僕「別に……もう慣れたよ」

ここで本当はつらいと、本当は友達がほしいと言うことができていれば何か違ったのだろうか。

K「変わってるね」

かなりあっさりしていた。特段、僕に興味はないと言わんばかりに。
それからも何か話したような気もするがよく覚えていない。ただその日の夜は、Kのことが気になってよく眠れなかったことを覚えている。

「信じるよ私は」

この言葉が頭から離れない。

その日を境に僕はKのことを意識するようになってしまっていた。意味もなく授業中にKを見てしまったり、Kが話してるとついつい会話を聞こうとしてしまったり。
普通に話してくれたKに僕は恋愛感情とは言わないまでも好意に近い感情を抱いてしまっていたのだろう。もしかしたら友達になれるのではないかと期待していたのだ。
こんなことを言うと読者から
「やっぱりお前は少し優しくされたら惚れてしまうメンヘラ野郎だな」
なんて言われてしまいそうだが、考えてもみてほしい。
誰一人として自分の言葉を信じてくれず、精神異常者だと思われている状況下。そんな中で信じると言われ、分け隔てなく話してくれる人が現れたら気になってしまうのも仕方のない話だろう。

だけど、僕は恐ろしいことに

 

つづく