【第3章:蕭索】
同級生「せっかくだし、ドトールで少し話さない?」
18年ぶりに本屋で再会した私のことが大嫌いだった同級生、その同級生に一緒にお茶することを勧められた。そんな場面が私の人生にあろうとは。
齢36にして童貞。圧倒的童貞。素人童貞とかではなく、生粋の童貞。純血。
もちろん女性と喫茶店でお茶をした経験など一度もない。
しかしだ。今となってはお互いに立派なおじさん、おばさんである。
二人の間に学生のような男女のドキドキ感など生まれるわけもない。
家に帰る気分でもなかったこともあり、自分でもびっくりするくらいすんなりとドトールに行くことを了承していた。
社会の底辺「いいですね。あそこのドトール、高校生の頃はなかったから一度も行ったことがなかったんですよ。」
ここでいうドトールとは、本屋のすぐ横にある10年ほど前にできた喫茶店だ。
この田舎では、数少ない大きめの喫茶店である。
同級生「だから敬語(笑) 相変わらず面白い人だね、社会の底辺君は。」
変わっていない。変わっていないのはこの人だ。
本当に楽しそうに喋り、どこまでも明るい。私とはまさに光と闇。
社会の底辺「それじゃあ、行きましょうか。」
同級生「本はもういいの? 邪魔してしまった?」
社会の底辺「いや、特に買いたい本があったわけでもないから。〇〇さんこそ、本はいいんですか?」
同級生「うん、私も特に買う予定はなかったから。」
私と同級生は本屋を出た。時刻は19時近かった。
本屋からドトールは歩いて1分もかからないほど近くにあるが、その道中、色々な考えが駆け巡った。
この人、メシ食ったんか? てか、なんでこんなことになった?
この人は私に何を話してくるんだ? 私は一体何を話すんだ?
私から話すことなど何もない。
いや、話すことはあっても話したいことは何一つとしてない。
新卒就活に失敗したこと。大学卒業後、長い間フリーターだったこと。
今はブラックすぎる職場で働いていること。ギャンブルで全てを失ったこと。
話したいわけがない。
まあ、私と真逆な彼女はきっと輝かしい人生を歩んでいるに違いない。
ここは彼女の自慢話を聞いて、テキトーに褒めて、承認欲求を満たしてあげよう。
同級生「あ、私が誘ったから私が出すよ。」
色々考えているうちに、ドトールに着いていた。
社会の底辺「いやいや、一応男である私が出しますよ。(震え声)」
同級生「ふふ、相変わらずの減らず口(笑) じゃあ、各自でということで」
この時、この瞬間、思い出した。思い出したくもなかったこと。
寂しい人だね
いつだって、この人と私はお互いの考え、言動に反発し分かり合えなかった。
それなのに、人を極力避けて生きてきた私が一番会話をした女性は間違いなくこの人だという皮肉。
彼女とは中学2、3年と高校3年の時に同じクラスだった。
中学の卒業式の日。もう20年以上前のことである。
同級生「ちょっと、どこ行くの社会の底辺。」
社会の底辺「どこって、家に帰るに決まっているだろ?」
同級生「これから打ち上げでしょ? 一回家に帰ってから来る気?」
社会の底辺「いや、参加しないって。」
同級生「なぜ?(怒)」
社会の底辺(うわ、出たよ。出ましたよ。委員長様の気持ちの悪い正義面。俺がクラスでハブられてることがわかんねえのか。)
社会の底辺「なぜって、、、参加したくないから。」
同級生「また? この前の学園祭の打ち上げも来なかったじゃない。最後くらい参加したらどうなの?社会の底辺以外、みんな来るよ。」
社会の底辺「......謹んで遠慮させていただきます。」
同級生「ほんとっ、、、寂しい人だね、、、(呆)」
吐き捨てるように彼女はそう言った。
この時の彼女の言葉と表情は今でもトラウマのようによく覚えている。
残念な人を見る目。この世には救いようのない人間がいることを悟った声。
きっと私は、生涯、この時の彼女の言葉を忘れることができないんだと思う。
【第4章:対面】
私はアイスハニーカフェ・オレとかいう甘々な飲み物を注文した。
冬だというのにアイス。
同級生はホットココアを注文していた。
席はそこそこ空いていた。何しろ田舎である。この田舎にしては不釣り合いなくらい大きな喫茶店である。
私と同級生は対面でテーブル席に着いた。
一体これから何が始まるんだ?
一体何を始めればいいんだ?
一体何を話せばいい?
つづく